2024年2月28日、香港政府のポール・チャン財務長官は2024/2025年度の政府財政予算案の演説で、現在施行中の電気自動車(EV)普及の政策「一換一/One-for-One Replacement)スキーム」の延長を発表しました。
今回はその発信内容について、従来のスキームと比較しながらご紹介します
香港の電気自動車(EV)事情
香港の乗用車市場は、限られた駐車場事情や、排ガス等の社会問題に対応するために政府主導の政策によりその総量をコントロールし、35,000〜45,000台の間で推移してきました
しかし、21年から始まった一換一/One-for-One Replacementスキームにより、状況は一気に変わりEVが急激に普及するようになり、2023年の新車販売に占めるEV比率はすでに7割を超えるに至り世界でも有数のEV占有率を占めています
実際に街中を見ても、テスラをはじめ、BMW、メルセデスといった高級車の他、中国メーカーのBYDやMG、上海汽車のMaxusなどその顔ぶれも大変充実してきました
環境的な要因
そもそも、EVというのはバッテリーに大きく影響を受け、特に以下の3点は大きなボトルネックです
- 充電に時間がかかる
- 寒いと充電量が下がる
- 高速運転では消費が多い
しかしながら、香港はその地理的な側面において国土面積が狭く、全域でも東京都の約半分程度でその中での運転となるため、1日の走行距離が少ない傾向にある。また、年間を通じて比較して温暖なため、バッテリーにとって有利な状況にある。また、高速道路も短いのでバッテリー消費が少ない。結果的に充電するというEV特有のネガティブ要素や制約条件を受けにくい環境がある
その上、香港は世界1ガソリンが高い地域としても有名で、ロシア・ウクライナの問題や中東の緊張が続き世界的にエネルギー資源価格が高騰し、24年2月末時点で3.2USD/Litreとシンガポールを抑えて世界1位。ガソリン車を運転するコストが高くなっているのもEV普及を後押ししている
EV普及ロードマップ
2021年3月に、香港政府環境局(運輸局ではなく)は、2050年までにCo2などの温暖化ガスの排出を実質ゼロにする取り組みが発表されたの受け、電気自動車(EV)普及に向けたロードマップを発表している
主な政策の柱は
- 自家用EVは、自動車の初回登録税の免除・車両登録費用の優遇、公共駐車場での無料充電
- 商用EVでは、初回登録税・法人税の免除、新エネ運輸基金から補助金の交付
- 充電施設においては、民間・公共住宅や駐車場への充電設備建設を促進、補助
香港の自動車税(初回登録税)
香港は全般的には低課税国として認識されており一般に関税や消費税がありません。しかし新車購入には、初期登録税(FRT:First Registration Tax)という高い税金がかかります。以下のような累進課税の設定です
- 最初のHKD150,000まで 46%課税
- 次の HKD150,000まで 86%課税
- 次の HKD400,000まで 115%課税
- HKD700,000以上 132%課税
仮にHKD300,000の新車を買う場合、はじめの$150,000 x 40% = 69,000、残りの$150,000 x 75% = 129,000
合計でHKD198,000が税金としてかかります。1HKD = 約19.1円なので378万円(!)が初回登録税としてかかります。裕福な方しかクルマ買えないわけですよね・・・
従来の「1 for 1」スキーム
しかしこの重税 初回登録税について「1 for 1」スキームにより、一定の条件をクリアした車からの乗り換えにより免税となります。先ほどのケースで言えば、$198,000まるごとゼロです。ただし、免税の上限額が定められており28万HKDまでとなります
上限にヒットする車両価格は、約34万HKD(約650万円)ですから、高級車も普段の初期登録税を負担している時よりずっと割安で買えたというわけです
なお乗り換えることになる下取車の条件は、半年以上保有し、新車登録から6年以上たった車です。この車は下取り後に廃車となります
この政策により、一気にガソリン車を手放し、EVを購入する機運が高まったのはいうまでもありません。実際、21年の発表以来、EV普及が加速しました。なお、このスキームは24年3月までという設定でした
今回延長が決まった「1 for 1」スキーム内容
さて、スキームの期限を間近に迎えた24年2月末、香港政府の財務長官より2024/25年の財政予算案が打ち出されましたが、その中で、この「1 for 1」スキームの延長が発表されました。その主な内容は以下の通りです
- 26年3月まで2年延長
- ただし、免税となる上限額を従来の28万HKDから、17万HKDに約40%引き下げる
- また車両価格が50万HKDを超える車は「1 for 1」スキームの対象外とする
事前の噂では、もう少し免税幅が縮小されるのではと囁かれていましたが、EV普及を推し進める政府の意向もあり(また消費が冷え込む中国本土の「輸出」を支える意味もあり)延長を決めたのではないかと推測します
考察・まとめ
スキームの延長により、まずは3月までに高級車は一気に値引きをしてでも在庫を消化しようとするでしょう。一方、消費者の方も、高級車を狙っていた方は購入を決める決断となるでしょう。またこうしたセグメントに投入しているブランド、機種についてはそのラインアップや価格ポジションを見直す必要が出てきました
対する廉価帯の方は、今回は変化を受けないため大きな混乱はなさそうです。ただし全額免除のラインが引き下げられたのを受け、30万HKD前後の売価帯のモデルは、価格低下圧力が働くものと思われます(心理的に、全額免税ラインが25万HKDのため
詳細は、2月28日発表の政府資料をご覧ください
皆様のご参考になれば嬉しいです