少し古い小説になりますが、作家の橘玲さん著『マネーロンダリング』を読み終わりました
Googleで検索して香港関連の本を探しているところ、たまたま見つけたものですが、これが本当に近年稀に見る大ヒットでした
ストーリーの展開もいくつかの伏線が張ってあって最後まで気を抜けない面白さがあるのですが、それにも増して様々なオフショアを利用したスキームが専門知識に基づきリアルに描かれていることですごい興味を惹き起こしたのでした
合法・非合法の境目についても言及があり、税務当局の視点も書いてあり、非常に「現実的」な話として感じられるので、香港に駐在・生活する者にとって正に必読書とも言えそうです
この記事では、簡単なあらすじから、実際に出てきた幾つかのスキームについてご紹介して本書の魅力についてお伝えしていきます
ストーリーの大筋を伝えることはせず、あくまでスキームや知識の一部をご紹介するにとどめますので、ぜひ興味を持たれた方は実際に本を手に取って読んでみることをお勧めします
本の紹介・あらすじ
初版は平成15年4月ですので、約20年前に世に出されたフィクションですが、その古さを感じさせないのは徹底的に現実的な方法に基づくところです
小説の冒頭には珍しい註がついている
これから本書で紹介される、タックスヘイブン等を利用した税務上の種々のテクニックは、あくまでも著者の想像上のものであり、税法に関するコメントは私的見解である。
読者が自らの責任においてこれらの手法を試みることは自由だが、それが現実に効力を有する保証はない。
また、それによって惹起されるであろういかなる事態に対しても、著者および出版社は一切の責任を負わない
『マネーロンダリング』冒頭より
こんなことを載せる経済小説が一体どれだけありますか?
大概は、荒唐無稽であり得ないアイデアを単にぶちまけるだけの金融小説やノウハウ本が多いのに対して、これをやったら出来ちゃうのでは・・・と本当に思えた印象です
さてここから簡単なあらすじ、というか導入部分のご紹介です
主人公は、香港在住の金融コンサルタント 工藤秋生
かつてウォール街でヘッジファンドに、その後 個人投資家として大きく相場を張るが市場の急落で大きな損失を出しドロップし、結局香港でオフショア口座を開設をサポートしたり、資金の移動を手伝ったりと個人レベルの金融コンサルで食い繋いでいた
そこに美しい女・麗子が訪ねてくる
「5億円を日本から海外に送金し、損金として処理して欲しい」
要求は脱税のアドバイスだった
一旦は断るも、麗子自身がやるという体を取った形でオフショアで法人口座を作ってやり、その後の動き方を指南する、、、そして数ヶ月後
麗子は、その金を持ってどこかへ消えてしまった。しかし5億ではなく、50億の金と共に消えていったのだったが、それはヤクザ絡みの危険な金だった
秋生は麗子と50億の行方を探しに、香港、東京を舞台にあらゆる知識とネットワークを駆使して探していくのだった
小説の中で紹介された事例のご紹介
香港の口座開設(HSBC)
HSBCの口座は主に、普通に開設するOneと、預金残高が100万HKDという条件をクリアすれば入れるPremierがあります
実際にOneでも不都合はありませんしPremierだから得られるメリットなど専用ロビーを使えるというもの以外大したものはありません
現実には窓口に行ったりする機会はほとんどなく、ATMくらいですので、担当者とおしゃべるする以外にはメリットは感じません。
OneでもオンラインバンキングやAPPを通じて、必要十分なサービスを受けられます
すなわち香港ドルの普通預金、当座預金、定期預金のほか外貨預金口座も開設できます
オンラインバンキング等で設定することで海外ATMでも香港ドル預金口座からキャッシュを引き出すこともできます
さて、口座開設ですが、名前、生年月日、職業、パスポートナンバー、自宅と職場の住所です(小説にはありませんが最近はマイナンバーも聞かれます)それぞれ英語表記が必要になることに留意です
ただ多くの日本人に取ってハードルが高いのは、口座開設には今でも担当者が新規口座開設を希望する顧客と向かい合って1項目づつ説明しながらアプリケーション・フォームに必要項目を記入させているので、片言でも英語が話せて、相手の話す香港訛りのブリティッシュ・イングリッシュを聞き取らないといけないためです
無事に終われば、普通預金用のキャッシュカードと小切手を受け取れます(郵送のパターンも)
この辺りについては、小説の時代と変わっているものもあると思いますので、また別の記事で詳しくご紹介したいと思います
タックスヘイブン国 国家の主権 税金対策
国家を名乗る以上は主権を有しており、他の国々は小さな島国であっても独立国の主権を行使に何の強制力も持てない
タックスヘイブン国が、有害税制(つまり超低税率)を導入してもそれを止める権利は他の国にはない
こうなると世界中の企業は税率の高い国から、タックスヘイブン国に逃避するようになるため、他の国々の課税主権がタックスヘイブン国によって侵害されてしまいます
しかしタックスヘイブン国が気にするのは、犯罪に関わるお金だけでそのほかは気にならない。なぜか。
それは、タックスヘイブン国には、所得税も法人税も、資産課税も相続税もない。
そのため、そもそも脱税という概念が存在しない。
他の国が脱税だと犯罪にみなしたとしても、タックスヘイブン国にはそんな犯罪はないので、預金者が国家に税金を払わないのは当然合法となる、ここが根深い問題
国家主権があるために自国の国民から徴税できる一方で、国家主権の届かない外国に対して主権を犯すことができない、というかそれをいうと矛盾が生じてしまうということで根が深い、、、という話
日本にいるとピンとこないかもしれませんが、香港にいると肌で感じるものがあります
小説の中で取り上げられた香港の主要なエリア
HSBC(上海香港銀行)本店
言わずと知れたHSBCの本店、中環(Central)にある 櫓に似た外観から「油田基地」の愛称で知られる。正面に獅子の像が据えられており、グランドフロアからレベル5まで吹き抜けになっている
イギリス最大の金融コングロマリットHSBCグループの旗艦店でありかつての大英帝国の東アジア植民地経営の象徴でもある
通貨を発行する中央銀行を持たない香港の金融制度を支える発券銀行の一つでもあります
中国銀行香港支店
HSBCの裏手にある中国銀行のビルが周囲に睨みをきかせるが如くビルの形が「剣」に見立てられる
その切先が香港総督府に向けられていると騒がれたことで返還前の香港では風水論争に揺れた。またこの中国銀行から発せられる邪気を払うためセントラル界隈にはガラス張りのビルが増えたとも言われる
中国政府による香港経営の拠点であり、香港に進出する中国系企業のメインバンクとして君臨すると同時に、参加に多数の大陸系金融機関を抱え、巨大なコングロマリットを形成している
重慶マンション
尖沙咀にある重慶マンションは、世界中のバックパッカーが集まる聖地であり、両替商といえばインド人というくらいのインド人が営む両替店が多数入っており、ここのレートは香港上海銀行などの一般金融機関よりも有利と言われている
ペニンシュラホテル
1928年に創業され、大英帝国の栄華を今にとどめるペニンシュラ本館
ロビーに隣接するティールームがあり、アフターヌーンティが楽しめる。ただ小説の中では世界で最も有名なホテルと触れながらも、ただの観光ホテル、とかなり批判的だ
その他の主要な舞台
スターフェリー、ミニキャブ、マンダリンオリエンタル最上階のバー、グランドハイアットのシャンパンバー、リッツカールトンのティールーム、上環の乾物問屋街、ビクトリアピークの展望台 など香港のディープな魅力がいっぱい詰まっているのも小説の楽しみの一つです
さいごに
オフショア活用した税制度の隙間を縫ったアイデアはかなりリアルで現実に香港に住む身としては何か参考にしておきたいと考えました
今あるHSBCの口座を使って合法の範囲でどこまでできるのか、色々試してみようと思います
皆さんももし興味を持っていただけたなら、ぜひ小説を読んでみてください!