香港に駐在して数年の間に、香港に関連する小説・書籍は一通り読んできましたが、案外これを読んでおけば間違いない、役に立つ、というリストが少なかったので、自分ベストで5つの秀作たちをご紹介します
小説を中心にリストアップしましたが、エッセイなども含めましたので、ご自分の好みに合ったジャンルで入ってみるのもいいかと思います
選定の基準は、以下の3点を軸に、あとは独自の好みと偏見で選んでいます
- 香港が題材もしくは舞台になっている
- 駐在員たちの間でも話題に上がる一定以上の知名度
- 香港人のマインドや生活、歴史などについて学べる
ぜひこの記事を読んでいただいた後、ちょっと読んでみようかな、と思っていただくだけで嬉しいです
沢木耕太郎著 『深夜特急1 香港・マカオ』
はじめにご紹介するのは、ノンフィクション作家・沢木耕太郎氏による紀行小説の金字塔『深夜特急1 香港・マカオ』(新潮文庫)です。
若き日の著者が、日本の日常を離れ、インドのデリーを目指してバスを乗り継ぐ旅の第一歩。その熱気とワクワクが詰まった名著は、駐在が決まったら必読書!
『深夜特急1 香港・マカオ』の簡単要約
物語の始まりは1980年。主人公(著者)は、思いつきのように「香港を経由してデリーまで乗合バスで行く」という途方もない計画を立てます。
最初の目的地である香港に降り立った著者が目にしたのは、エネルギーと雑踏が渦巻く混沌とした街でした。悪名高い安宿「チョンキンマンション(重慶大厦)」での強烈な洗礼、言葉の通じない不安、そしてちょっとした息抜きに訪れた隣町・マカオでのカジノ体験など、旅の初心者ならではの戸惑いと高揚感がリアルに描かれています。
決まったスケジュールもガイドブックもない、ただ自分の足と直感だけを頼りに歩き出す「旅の原点」が詰まった一冊です。
ここが面白い!おすすめの見どころ3選
1. 圧倒的なリアリティと熱気ある香港描写
当時の香港が持つ、むき出しのエネルギーが紙面から飛び出してきます。特に、カオスな空気が漂うチョンキンマンションでの描写は圧巻。観光地化された場所とは違う、アジアの「生きた空気感」を追体験できます。
2. 「旅の初心者」ならではの等身大の戸惑い
のちに世界を股にかける名紀行作家となる著者ですが、この旅の最初は不安だらけ。ぼったくられたり、小さな失敗を重ねたりしながら、少しずつ「旅人」へと成長していく姿がとても人間らしくて親近感が湧きます。
3. マカオのカジノについて教えてくれる
香港の喧騒から逃れるように訪れたマカオ。そこで著者が体験するのが、カジノ(賭博場)での真剣勝負です。
ルーレットや大小といったゲームに挑むのですが、単なる「娯楽としてのギャンブル」ではなく、「限られた所持金の中で、自分は何に賭けるのか」という、旅の道連れとなるスリルと偶然性を味わえる、作中でも特に印象深い名場面です。
『深夜特急』はここから始まります。全3部作(あるいは文庫全6巻)の壮大な旅のプロローグとして、ぜひ手に取ってみてください!

山口文憲著 『香港世界』
次にご紹介するのは、ノンフィクション作家・山口文憲氏による伝説的旅エッセイ『香港世界』(河出文庫ほか)です。
1970年代後半のイギリス統治下、独自の発展を遂げていた「失われた香港の姿」を鮮やかに切り取った、旅好き必読の一冊!
『香港世界』の簡単要約
本書は、著者がかつて暮らしていた返還前の香港を舞台に、その街と人々の営みを独自の視点で描き出した名作ルポルタージュです。
観光地を巡るだけのガイドブックではなく、庶民が賑わう市場(街市)やローカルフード、象徴的なスターフェリー(天星小輪)、映画館での熱気、そしてそこに生きる人々のたくましい死生観までが活き活きと綴られています。
「国家」や「イデオロギー」とは別の次元で、したたかに、そして自由に生き抜く人々のエネルギーが詰まった、色褪せない記録です。
ここが面白い!おすすめの見どころ3選
1. 圧倒的なエネルギーに満ちた「失われた自由都市」の空気感
ページを開いた瞬間から、むせ返るような熱気とネオンの光、雑多な活気が迫ってきます。今はもう見られない時代のアジアのるつぼが、著者のユーモアとウィットに富んだ筆致で鮮やかに蘇ります。
2. 観光地ではない「庶民の生活の匂い」を描く視点
きらびやかな高層ビル群の裏側にある、市場の喧騒やローカルな食文化、人々のリアルな暮らしぶりにスポットが当たっています。そこに暮らす人々の息遣いが聞こえてくるような、ディープな香港の魅力に引き込まれます。
3. 「かりそめの街」を生きる人々のたくましさと哀愁
「いつの日か形を変えてしまうかもしれない」という、どこか刹那的でドライ、なのに異様なほどバイタリティにあふれた香港人のメンタリティ。その独特な死生観や価値観に触れることで、単なる「旅の本」を超えた深い人間ドラマを感じられます。
ノスタルジーと圧倒的な熱量が同居する、唯一無二の香港へ連れてい行ってくれる名著です。ぜひ手に取ってみてください!

橘玲著 『マネーロンダリング』
3つ目に紹介するのは、国際金融や経済の裏側をスリリングに描き出す作家・橘玲(たちばな あきら)氏のデビュー作にして、経済小説の金字塔『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)です。
『マネーロンダリング』の簡単要約
主人公の工藤は、かつてウォール街の金融エリートでありながらも挫折を味わい、現在は香港でフリーのファイナンシャルアドバイザーとして気ままに暮らしていました。しかし、一人の美女からある企業の資金をめぐる相談を持ちかけられたことから、彼の運命は大きく狂い始めます。
数億円単位のマネーをいかにして当局の目から隠し、いかにクリーンな金に変えるのか? やがて「50億円と消えた美女」をめぐる巨大な陰謀に巻き込まれ、香港と東京を舞台にした命がけのマネーゲームの幕が上がります。
ここが面白い!おすすめの見どころ3選
1. 圧倒的なリアリティ!「お金の裏社会」を覗き見する興奮
作者・橘玲氏本人の深い金融知識がベースにあるため、オフショア口座やペーパーカンパニーを使った資金洗浄のロジックが驚くほどリアル。まるで本当にその裏技が存在するかのような緻密な描写に、ページをめくる手が止まらなくなります
2. 香港の圧倒的な熱気と、東京を駆け抜けるハードボイルドな展開
当時の香港が持つ、むせ返るような雑踏や国際金融都市ならではの湿り気が見事に描かれています。さらに、舞台が東京へと移ってからの、ヤクザとの駆け引きや裏切りが幾重にも重なるスリリングなサスペンスは圧巻です。
3. 主人公・工藤のシニカルでクールな生き様
熱い正義感があるわけでも、巨悪を懲らしめたいわけでもなく、どこか冷めた視点で自分の置かれた状況を楽しむ主人公・工藤のキャラクターが非常に魅力的。窮地に追い込まれながらも、頭脳をフル回転させて切り抜けていく姿に引き込まれます。
国際金融都市 香港において「お金とは何か」「信用とは何か」を軽妙かつクールに問いかける、大人のための金融エンターテインメント。個人的にはイチオシの1冊!

星野博美著 『転がる香港に苔は生えない』
「激動の時代を生きた香港の、本当の素顔に触れてみたい」 そんな、観光ガイドブックには載っていないディープなアジアの姿を覗いてみたことはありませんか?
4作目にご紹介するのは、ノンフィクション作家・星野博美氏による傑作ルポルタージュ『転がる香港に苔は生えない』(講談社文庫)です。
返還前後の熱気あふれる香港にどっぷりと浸かり、そこに生きる人々の営みをユーモアと愛情たっぷりに描き出した、香港の街と人を愛する人必読の一冊です
『転がる香港に苔は生えない』の簡単要約
本書は、筆者が1990年代の香港に暮らし、現地の言葉や文化に体当たりでぶつかりながら綴った生活・紀行エッセイです。
きれいな観光地としての香港ではなく、ビルが林立する雑踏、下町の古いアパート、怪しげな漢方薬局、そして何よりも「お金とエネルギー」を求めて逞しく生きる香港の人々の日常がリアルに描かれています。
「時は金なり」を地で行くバイタリティと、どこか人間臭くて愛おしい香港の街の空気をまるごと味わえる一冊です。
ここが面白い!おすすめの見どころ3選
1. 外側からは見えない「ディープな下町」の圧倒的な生活感
おしゃれなレストランやブランド街ではなく、ローカルな食堂や市場、路地裏へと足を踏み入れる著者の視点を通して、香港の「本当の暮らしの匂い」が伝わってきます。そこに生きる人々のたくましさに思わず圧倒されます。
2. 香港人たちの驚くべきバイタリティと現実主義
「転がる石に苔は生えない」の言葉通り、立ち止まることなくお金やチャンスを追い求め、変化し続ける香港人たちのエネルギー。その強かさと、どこかカラッとしたユーモアセンスが軽妙な筆致で描かれており、ページをめくる手が止まりません。
3. 激動の時代を迎える街がまとう、切なさと熱気
中国返還という大きな歴史のうねりのなかで、街や人々がどのように揺れ動き、それでも前を向いて生きているのか。その時代の空気をその場で一緒に吸っているかのような臨場感を味わうことができます。
読むだけで、香港の雑踏やネオンの光、美味しそうな匂いまで漂ってくるような名著です。読み終えれば一通りの香港通になれる一冊。

早瀬耕著 『未必のマクベス』
「あのとき、別の選択をしていれば、私の人生はどう変わっていたのだろう?」 誰もが一度は胸に抱くそんな「もしも」の問いに、鮮烈な答えを突きつける物語に出会ったことはありませんか?
最後にご紹介するのは、圧倒的な筆力と緻密な構成で読者を魅了する作家・早瀬耕氏の長編小説『未必のマクベス』(ハヤカワ文庫JA)です。
香港、アテネ、ロンドン、そして東京を舞台に、一つの不審な死と過去の記憶をたどる、大人のための極上のサスペンス&ミステリーの要約と見どころをご紹介します!
『未必のマクベス』の簡単要約
物語の主人公は、東京のIT企業に勤める平凡なサラリーマン・渡良瀬。ある日、彼はかつて旅先で出会った謎めいた美女・リカの消息を絶たれたことを知ります。
彼女の足取りを追うように、渡良瀬は香港やアテネ、ロンドンといった世界各国の都市へと導かれていきます。しかし、彼女を探すうちに、背後には巨大なビジネスの陰謀と、思いもよらない「過去の因縁」が絡み合っていることが判明します。
偶然の出会いが運命の歯車を狂わせ、誰も予期しなかった結末へと向かう、哀愁とスリルに満ちた旅の物語です。
ここが面白い!おすすめの見どころ3選
1. 香港をはじめとする、世界の街並みが香る圧倒的な旅情
著者の描く海外の風景の描写が素晴らしく、特に物語の鍵となる香港の雑踏や熱気、路地裏の空気感が生々しく伝わってきます。まるで自分自身も主人公と一緒に、世界の都市を旅しているような没入感を味わえます。
2. 「運命の選択」をテーマにした重厚で緻密なミステリー
タイトルにある「未必(みひつ)」という言葉が示す通り、自分の意図しないところで人生の歯車が大きく動き出してしまう怖さと美しさが描かれています。散りばめられた伏線が美しく回収されていく、知的な興奮に満ちたストーリー展開は圧巻です。
3. 孤独な大人たちの魂が共鳴する、切なくも美しい人間ドラマ
決して派手なヒーローではない等身大の登場人物たちが、それぞれの過去や後悔を抱えながらも前に進もうとする姿が胸を打ちます。読み終えたあと、静かな余韻と深い感動が心に残る名作です。
ページをめくるたびに遠い異国の風を感じられる、大人のための極上の物語。ぜひ手に取ってみてくださいね!

惜しくも選外だけど紹介しておきたい本
詳しく紹介こそしませんが、香港をより詳しく知りたい方におすすめの良書5選です
飯田真紀著 『広東語の世界 〜香港、華南が育んだグローバル中国語〜』

松浦寿輝 『香港陥落』

安田峰俊著 『八九六四 〜「天安門事件」から香港デモへ〜』

羅冠聡(ネイサン・ロー) 著 『香港人に希望はあるか』

まとめ
何冊も香港を舞台にした作品を読む中で、過去の歴史や経緯が頭のなかに入ってきます。
政治的に歴史的な特異なポジションを取ってきた香港を知るには、これらの本を読めば、かなり明瞭に輪郭を掴めるのではないかと思います
観光地を巡ったり、グルメを楽しむのもいいですが、良書を通じて香港を掘り下げてみるのはいかがでしょうか?
お気に入りの1冊が見つかれば幸いです
では!

